Introduction

第2次大戦下、領土を奪われ翻弄される
ウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族が
大地と子どもたちを守り抜こうとする運命の物語
 クリスマスキャロルとして有名な「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、ウクライナで古くから歌い継がれている民謡「シェドリック」に1916年“ウクライナのバッハ”との異名を持つ作曲家マイコラ・レオントーヴィッチュが編曲し、英語の歌詞をつけたものである。映画『ホーム・アローン』(90)内で歌われ、世界中に知られるようになった。この歌は「ウクライナ語、ウクライナ文化が存在している」という明確な証として今も歌い継がれている。

 2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まった。ウクライナは抵抗を続け、この戦争は現在も世界中に多大な影響を与え続けている。この侵攻が始まることを予感していたかのように2021年、ドキュメンタリーを主戦場とするオレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督は本作を作り上げた。1939年1月、ウクライナのイヴァーノ=フランキーウシク(当時はポーランド領スタニスワヴフ)から物語は始まる。同じ屋根の下で暮らすウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族が第2次大戦に巻き込まれ翻弄されても「キャロル・オブ・ザ・ベル」の歌に支えられ、ひたむきに生き続ける姿は荘厳である。ウクライナ人の母は、ポーランド、ユダヤ人の娘たちに加え「この子に罪はない」と言ってナチス・ドイツの子どもさえも預り、自分の子どもたちと同じよう懸命に戦火から守り抜く。

 第2次大戦のウクライナ、ポーランドを舞台にした日常を生きる家族を通して戦争を描く、今を生きる全世代必見の映画がこの夏公開する。

Story

なにがあっても、生きる。
 1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イヴァーノ=フランキーウシク)にあるユダヤ人が住む母屋に店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受け歌が得意で、特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露する。第2次大戦開戦後、ソ連による侵攻、ナチス・ドイツによる侵攻、再度ソ連によって占領される。ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって離され娘たちが残される。ユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサの3人の娘たちをウクライナ人の母であり歌の先生でもあるソフィアが必至に守り通して生きていく。

 戦況は悪化し、子どもたちを連行しようとソ連軍が家探しを始めるが、ソフィアが機転を利かせて最悪の事態は免れる。ナチスによる粛清によってウクライナ人の父の手に及び処刑されてしまう。残されたソフィアは、ウクライナ人である自分の娘、ポーランド人の娘、ユダヤ人の娘に加えて「この子には罪はない」と言ってドイツ人の息子を匿うことになるのだった…。

Chronology

第二次世界大戦下のウクライナ年表
  • 1917年11月
  • ウクライナ人民共和国の成立
  • 1921年3月
  • ポーランド・ソビエト戦争終結
  • 西ウクライナはポーランド領、その他はソビエト領となる
  • ウクライナ人民共和国政府はポーランドに逃れて亡命政府を立てる
  • 1922年12月
  • 赤軍勝利によってソ連邦結成
  • ウクライナはウクライナ社会主義ソビエト共和国として一方的に併合される
  • 1929年1月
  • ウクライナ民族主義者組織(OUN)創設
  • 1932年4月〜1933年11月
  • ウクライナで当時のソ連政権による計画された人工的な大飢饉が起こる(ホロドモール)
  • 1939年9月
  • ドイツとソ連によるポーランド侵攻、第二次世界大戦勃発
  • ソ連はその後ウクライナを占領
  • 1941年
  • 6月 ドイツのソ連侵攻
  • 9月 ドイツがウクライナ首都キーウを占領
  • 1942年
  • 7月 ドイツがウクライナを占領
  •     スターリングラード攻防戦始まる
  • 10月 ウクライナ蜂起軍(UPA)結成
  • 1943年
  • 8月 ソ連のウクライナ攻勢
  • 11月 ソ連軍によるキーウ占領
  • 1944年5月
  • ソ連によるクリミア・タタール民族のクリミア半島からの強制移住
  • 1944年6月
  • ソ連軍による西ウクライナ制圧、連合軍のノルマンディ上陸
  • 1945年
  • 4月 ベルリン陥落
  • 5月 ドイツ降伏
  • 8月 日本降伏
  • 1954年
  • クリミア半島の帰属がロシアからウクライナに移管
  • 1991年8月
  • ソ連崩壊によりウクライナ独立宣言

Cast Profile

Profile >
ヤナ・コロリョーヴァ
ソフィア・ミコライウナ役(ウクライナ家族の母親)
Profile >
アンドリー・モストレーンコ
ミハイロ・ミコライウナ(ウクライナ家族の父親)
Profile >
ポリナ・グロモヴァ
ヤロスラワ・ミコライウナ役(ウクライナ家族の子ども)
Profile >
アラ・ビニェイエバ
ベルタ・ハーシュコウィッツ役(ユダヤ家族の母親)
Profile >
トマシュ・ソブチャク
イサク・ハーシュコウィッツ役(ユダヤ家族の父親)
Profile >
フルィスティーナ・オレヒヴナ・
ウシーツカ
テレサ・カリノフスカ役(ポーランド家族の子ども)
Profile >
ヨアンナ・オポズダ
ワンダ・カリノフスカ役(ポーランド家族の母親)
Profile >
ミロスワフ・ハニシェフスキ
ヴァツワフ・カリノフスカ役(ポーランド家族の父親)
ヤナ・コロリョーヴァ
ソフィア・ミコライウナ役(ウクライナ家族の母親)
1988年4月16日、ウクライナ・ドニプロ生まれ。2008年ドニプロペトロウシク市のシアター・アートカレッジ歌唱専攻を卒業。2011年、国立文化芸術管理アカデミーにて更に歌唱を学び2008年から2022年までドニプロ国立音楽・ドラマ劇場にて舞台に立つ。
アンドリー・モストレーンコ
ミハイロ・ミコライウナ(ウクライナ家族の父親)
1972年1月10日、タリン(エストニア・ソビエト社会主義共和国連邦、現エストニア)生まれ。ドイツ民主共和国にて兵役に服する。兵役の後エストニアに戻り、働きながら音楽活動を始める。その後ウクライナのムィコラーイウ州へ移り、2002年キーウ国立文化芸術大学ムィコラーイウ校を卒業。1993年から2006年まで、ムィコラーイウ・アカデミック・ウクライナ・ドラマ&ミュージカルコメディ劇場で多くの舞台に出演。 主な演目は「二兎を追う」「女性を征服する科学」「ドナウ川の向こうのザポロージャのコサック」「魔法使い」「マイ・フェア・レディ」「アイソーポス」、「嘘つき大募集」など。2008年から俳優の傍ら声優にも挑戦。
ポリナ・グロモヴァ
ヤロスラワ・ミコライウナ役(ウクライナ家族の子ども)
2011年、ウクライナ・キーウ生まれ。幼少期より歌が得意で2020年、ポーランドとウクライナの共同生産プロジェクトのオーディションを受け舞台「お父さん」に出演。ロシアによるウクライナの本格的な侵略が始まって以来、ポーランド・ワルシャワへ避難している。
アラ・ビニェイエバ
ベルタ・ハーシュコウィッツ役(ユダヤ家族の母親)
キーウ国立劇場、映画・テレビ大学の演技専攻を卒業。現在は主に「テアトラーリナ・ビールジャ(シアターエクスチェンジ)」という劇場で舞台に出演。ウクライナ国内外の映画館で上映された5本の長編映画を含む30本以上の映画に出演。
トマシュ・ソブチャク
イサク・ハーシュコウィッツ役(ユダヤ家族の父親)
1994年、舞台俳優としてデビュー。トランスアトランティック劇場を設立。室内劇場、インディペンデントシアター、実験劇場に興味を持つ。
フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
テレサ・カリノフスカ役(ポーランド家族の子ども)
2010年6月9日、ウクライナ、キーウ生まれ。4歳から映画に出演。ロシアによるウクライナの本格的な侵略が始まって以来、家族と共にドイツへ避難。現地の学校に通っている。
ヨアンナ・オポズダ
ワンダ・カリノフスカ役(ポーランド家族の母親)
1988年7月2日、ポーランド、ブスコ・ズドロイ生まれ。クラクフの芸術アカデミーを卒業。主にTVドラマで活躍し、モデルや歌手としても活動している。ポーランドのドラマ「ブリジット・バルドーは最高」(22)ではタイトルロールを演じるなど人気を博している。
ミロスワフ・ハニシェフスキ
ヴァツワフ・カリノフスカ役(ポーランド家族の父親)
1978年8月7日、ポーランド、クラクフ生まれ。ウッチ映画大学を卒業。舞台や映画で活躍し、『I am a Killer』(16)で2017年のポーランド映画賞主演男優賞にノミネートされた。

Staff and Comments

監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ
Olesya Morgunets-Isaenko
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Profile
1984年ウクライナに生まれる。キーウ国立演劇映画テレビ大学を卒業し、卒業制作映画“MOLFAR(08)”がモスクワで開催された「21世紀の新しい映画祭」にて審査員賞を受賞。以降はテレビドキュメンタリーを中心に活動。本作が長編劇映画監督作品2作目となる。
アーテム・コリウバイエフ  プロデューサー
Artem Koliubaiev
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セルギー・コルスンスキー 駐日ウクライナ特命全権大使
Sergiy Korsunsky
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オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ  監督
Olesya Morgunets-Isaenko
私は2008年にこの業界で働き始めました。映画監督となったのは2014年からです。これは私の2作目の長編劇映画です。このプロジェクトは私にとってとても特別かつパーソナルなものです。この企画に参加する8カ月前に娘が生まれました。この映画のテーマと雰囲気は私の内面の精神状態と共鳴しました。私は自分の娘そしてあらゆる子供たちの生命と未来は何よりも大切なものだと理解していたのです。その上、この映画の主役もまた女性であり、そして彼女も娘たちを抱えています。

また、この映画はあらゆる国家における文化と伝統が人間性においてもっとも偉大な宝物であることを提示します。登場人物たちは作中殆どの時間を外界から隔絶されていますが、音楽が彼女らをその悲しみから守っているのです。

この映画は、ロシアによるウクライナの本格的な侵攻の前に制作されましたが、その時点でさえ私たちが住む国は戦争中の状況でした。老いも若きも、ウクライナに生きる人々の中に戦争や悲劇的な出来事を経験せずに生き延びている人は一人もいませんので、この映画に取り組むことは私にとって非常に重要でした。そして今、この映画はさらに現代との関連性が高まっています。映画で描かれたように、実際の戦争において、女性や子供は常に戦争の人質です。妊娠中だった私の姉と姪は、占領地の地下室に28日間過ごすことを余儀なくされました。なので、私は私たちの映画が記憶から消し去られてはいけない過去を反映したものであり、そして未来はウクライナ人と世界にとってより良きものになるはずだと考えています。
アーテム・コリウバイエフ  プロデューサー
Artem Koliubaiev
この映画は戦争こそ人類が発明した最悪のものであると人々に訴えかける重層的な物語です。物語は女性たちと子供たちに焦点を当て、そして脚本のクセニア・ザスタフスカそしてオレシャ・モルグネツ=イサイェンコという女性映画人によって制作されました。彼らは20世紀にこの国が直面した最も暴力的で、残酷な人災であった戦火の真っただ中を生きたポーランド人、ユダヤ人、そしてウクライナ人の女性の声を代弁しています。古来より女性は家族的な伝統と国家の文化的価値観を子供たちに託す役目を担わされてきました。より良い未来を築くために、新しい世代は過去を記憶しなければなりません。この物語において過去と現在を結び付けているのは、今や世界で最もポピュラーなクリスマスソングの一つとなった“キャロル・オブ・ザ・ベル”の基になったウクライナの新年の歌「シェドリック」です。
セルギー・コルスンスキー
駐日ウクライナ特命全権大使
Sergiy Korsunsky
ウクライナは古くから侵略され続け、特にロシア革命以降ソ連とドイツから脅かされ続けてきました。その後の第2次世界大戦下では最も激しい戦闘地域のひとつでした。置かれた立場も非常に厳しく、やはりソ連やナチスに侵略され、大戦が終わってもソ連に侵略されたのです。この歌の基になったのは、ウクライナ人がここに存在しているよと、希望の声を届けてくれるウクライナに伝わる民謡です。この映画は激動する時代の流れの中で懸命に生きる家族を描いています。ウクライナ人としての尊厳を守り続けた両親の愛に育まれた子どもたちの無垢で美しい歌声は、我々の心の奥底に染み渡ります。未来を生きる子どもたちの平穏な日々を奪う権利は誰にもないのです。

Credit

キャスト
ソフィア・ミコライウナ(ウクライナ人母親)ヤナ・コロリョーヴァ
ミハイロ・ミコライウナ(ウクライナ人父親) アンドリー・モストレーンコ
ワンダ・カリノフスカ(ポーランド人母親)ヨアンナ・オポズダ
ヴァツワフ・カリノフスカ(ポーランド人父親)ミロスワフ・ハニシェフスキ
ヤロスラワ・ミコライウナ(ウクライナ人子ども) ポリナ・グロモヴァ
テレサ・カリノフスカ(ポーランド人子ども)フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
ベルタ・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人母親)アラ・ビニェイエバ
イサク・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人父親)トマシュ・ソブチャク
ディナ・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人子ども) エウゲニア・ソロドヴニク
スタッフ
プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ
監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ
脚本:クセニア・ザスタフスカ
撮影:エフゲニー・キレイ
音楽:ホセイン・ミルザゴリ
美術:ブラドレン・オドゥデンコ
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/ビスタ/122分/原題:Carol of the Bells
配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 配給: 彩プロ
© MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020
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